気持ちを操作する

僕の事ではないが、時効だと思うので書く。
友達の兄貴はとても危険な人物で、背丈は160前半でそんなに大きくないけど、喧嘩っ早くてずるがしこい。
交番にある地図の自分家に赤丸が入るぐらいの要注意人物。
声が少しオットリしてるのはきっとシンナーの影響だと思う。


幸い僕は兄貴から怖い目に遭った事がないけど、原付の修理でトラブルになって家のレンガを持ってバイク屋に乗り込んで、ガタイの良い店員に囲まれても平気だったり、車を運転しながら暴走族に囲まれても金属バットで応戦してた時には関係ないのに巻き込まれてどきどきした。
それよりもびっくりした事は近所の山に登山に誘われたので渋々ついて行ったら、○○が繁っているのを見て足が震えた。(ここでは幸せの木としておく。)


他には、少し頭も切れるのでクワガタの売買も行い、どういうツテかは知らないけど、昆虫に強い大学教授を捕まえてボロ儲けしてた。
その時に政治が不安定な国の昆虫は高値で売買されるって話を教えてもらった。
この手の話は他にもあるけど、平気で他人をぶん殴るスキルのある人は後先考えてないので恐怖を植え付けたりできるし、線が一本切れている人ってのはこういう感じなんだと思った。


ある日友達と部屋で遊んでたら、鬼の形相で兄貴がやってきた。
横で話を聴いてると兄貴の車を勝手に使ったらしく、肝心の本人が使いたいときに車がなかったとの事。
瞬く間に友達は床にひれ伏し、僕の制止も空しく、2階の部屋から髪の毛を引っ張られて下の階へと連れて行かれた。
それ以降は見ていないが、物の割れる音がして、友達が泣きながら謝ってたのが聞こえた。帰りに玄関の花瓶が粉々になっていた。
兄弟喧嘩で弟の頭部を花瓶で強打する人間は少しおかしいと思う。


その後兄貴に新しいマイブームがやってきて、精神科で病気でもないのに、薬を処方してもらってた。
不謹慎すぎて開いた口が塞がらなかった。
会うたびにヘラヘラしてたのは別の意味で恐怖だったが、ピースなバイブスで満たされていたので良しとしておいた。
仮に間違っていたとしても口を出せない。


それから数日後、友達の部屋で遊んでいると、兄貴から友達に1本の電話が掛かってきた。
前回と同じく、また車を勝手に使って兄貴がカンカンとの事らしいのでもうすぐ家に来るらしい。前回で懲りてない友達は少しバカではないかと思った。


一時間後、部屋のドアが勢いよく開いたので、次は何が壊れるのかと思っていたら、ニコニコしながら
「車を使うときには一言連絡しろよ、次から気を付けろよ」
と、普通の事を話してて逆に恐怖を憶えた。


あんな乱暴な兄貴が小さな薬一つで穏和な性格になった。
人の感情って何だろうと思ってショックを受けた。
あれ以来、自分の感情を100%信用出来なくなった。


薬一錠で自分の気持ちを操作できるなら、自分でも感情のコントロールができるのではないかと思い、自分が辛いときの感情のコントロールが少し出来るようになった。
よくみんなから、楽しそうとか、悩みなさそうとか、デリカシーに欠けるとか、笑瓶に似てるとか、スイーツ(笑)とか言われるけど、自分の中で精神的に煮詰まらなくなる方法をボンヤリ習得したからだ。


論理的に考えた場合に、八方塞がりの場合は余計に苦しくなる。
自分も経験があるけど、煮詰まってどうにもならないときは残酷だけど頑張っても泥沼。借金みたいに精神の自転車操業
周りを見てると頭のいい人ほどそうなって消えていく。僕の好きな人は少しずつ消えていった。


精神的に病んでる人に松岡修造みたいに頑張れ、頑張ればいいことあるって陳腐な話をしてるのではなくて、自分は少し感情をコントロールして楽しく生きている。